ちっちゃいけどパワフル。いつも元気いっぱいの現役獣医師が、厩舎や牧場のごく普通の日常をご紹介します。
St Nicholas Abbey号
2013年08月08日 (木) | 編集 |

この骨折なら間違いなく、安楽死を勧めるだろう…

愛国のSt Nicholas Abbey(セントニコラスアビー)号が調教中に右前肢の繋にあたる部分、第一・第二指骨を骨折しました

オーナーはCoolmore Stud

英国でお世話になっていた獣医師が以前勤めていた牧場なので、話は聞いていました

ずいぶん悩んでいたようだったので、程度を覚悟してはいましたが

酷いものでした

Barbaro号を思い出させます

きっと執刀した米国のDr.リチャードソンもそうだったと思います

患肢には骨盤から骨移植も施されました

骨折修復には2枚のLCP(ロッキング・コンプレッション・プレート)、20本のスクリューを使用

第三中手骨にはギプス越しにピンを挿入して骨折部に負担がかからないようにしています

しかしこの手術後、アビーは疝痛を発症し再び手術

患馬への負担はかなりのものです

この数週間を乗り越えられるかが大きなポイントになるでしょう

そして大きな数週間を超えても月単位でケアが必要になります

Barbaro号は術後2か月で最初の蹄葉炎を発症し

いったん回復の兆しをみせたものの半年後に安楽死処置されました

馬の獣医師ならみんな予測し覚悟していると思いますが、決して口にはしません

Fingers Crossed

ただただ祈るばかりです




そしてお気づきの方もいると思いますが

このような貴重な経過報告を世界中に公開しているのは非常に稀なことです

獣医師として敬意を表したい

この症例を無駄にしてはいけないと思います

St Nicholas Abbey "The Road to Recovery"


動画が観られない方はここをクリックしてください






以前は「うちの馬の治療は全て先生に任せるから」

「何かあったら責任は自分がとるから自由に治療してくれ。そしてこれからの馬たちにも役立ててくれ」

そんなことを言ってくれる関係者がいて、獣医師としても薬の選択や治療法の選択を任されることで

多くの経験を積み、応用することができました

でも最近の事情もあり、このような機会が減ってきたように感じます

馬が減り、馬主さんが減り…

負の影響は計り知れないのです





これまで以上に集中してひとつひとつの症例と向き合わなくてはいけない

アビーのケースからも世界中の獣医師や関係者が学ぶでしょう

頑張って欲しい

アビーも

周りの関係者も。。。


8月になりました
2013年08月05日 (月) | 編集 |
月日の経つのは早いですね

もう8月

ホッカイドウ競馬もあと4か月足らずになりました

最近は日も短くなったなぁーと感じています

本州はまだまだ暑いようですね




先日、大人しかったはずの馬が治療中に突然暴れました

「どうしたんだろうね」と言うと

スタッフが「この間怖い思いさせちゃったんだ。それ以来なんでもビビっちゃって…」

そう言って馬の頭をなでていました

馬も人と同じ、心を持った生き物

暴れる馬には暴れる理由があるんです

すぐに叱りつける前に、少しだけ馬の気持ちを考えてあげたいですね





牧場でデビューを待っている馬を紹介します

彼女はハクサンムーン号の妹

栗東の吉村厩舎からデビューします

お母さんのチリエージェ号もよく知っている馬なので、ぜひ頑張って欲しいと思っています

こちらはおなじみシルクメビウス号

青草ガン無視で飼い葉を食べてます…こっち向いてよぉー



みなさんは「うまレター」というフリーペーパーをご存知でしょうか

私はこれを読むのが毎月楽しみです

8月号には放送作家の村上さんが登場しています

村上さんはエンジェルツイート号やビーボタンダッシュ号のオーナーです

馬主になること、なってからの心境の変化や競馬の世界に対する想いの変化

とてもわかりやすく伝えてくださっています

馬主になると決意することは簡単なことではありません

どれほどの想いを馬に託していらしたか

どれほどこの世界を想ってくださっていたのか

獣医師としても勉強になりました






美浦や栗東と違い、馬道というものがなかった門別競馬場

これまでは馬と車が同じ道を使っていましたが

8月より厩舎エリアの走行基準が変わりました

車は右側を通行し、馬道を確保できるようにしています

これからも事故のないよう気を付けたいと思います




私自身のトレーニングもなかなかキツくなって…

文句ひとつ言わない馬たちを見ては自分を戒めています

ちゃんと食べて、ちゃんと動いて、ちゃんと休む

こういう普通のことが本当に大切なことなんだと思います

もの言わないアスリートを支えられるよう頑張らなくちゃね



仕事ができること、トレーニングができること

全てに感謝です







先日、JR北海道の事故に関して元国鉄職員のおじいさんが街頭インタビューで答えていました

「昔はエンジン音だけで異常を察知できる"職人"がいた。今は機械ばかりに頼りすぎて人間の力が生かせていない気がする」

この言葉が強烈に響きました

獣医師もそうかもしれない

診断機器の進化は目覚ましい

けれど…

ヒトとしての感覚、忘れないようにしていきたいと思います